カストロールロケット:二輪車の地上最速記録への挑戦

人とマシンが完全に調和し、速度の限界を超える――この夢はこれまで何世紀もの間、幾度となく実現されてきましたが、次にこの夢がかなう時もすぐそこまで来ています。英国のバイクメーカー「トライアンフ」がカストロール・ロケットで二輪車の地上最速記録への挑戦をスタートします。

コベントリーに拠点を置くトライアンフ社は、1955年から1970年までオートバイの地上速度記録を保持していましたが、その後、英国を象徴するこのバイク・ブランドは記録への挑戦をいったん中止しました。現在の世界記録は、スズキが保持する時速376.363マイル(605.697km/h)です。

今まで数十年の間、地上速度記録への挑戦を続けたカストロールとトライアンフですが、カストロール・ロケットは、再び両者がタッグを組んで、新記録への挑戦を再開するという栄えあるイベントです。この挑戦で世界記録の塗り替えるだけでなく、時速400マイル(643.737km/h)の壁を突破するという困難な目標の達成も目指しています。

記録への挑戦の場

記録への挑戦が行われるのは米国ユタ州のボンネビル・ソルトフラッツ。この地こそ、空気力学の専門家マット・マークスタラー(Matt Markstaller)、エンジン製造担当のボブ・カーペンター、ライダーのジェイソン・ディサルボをはじめとするカストロール・ロケット・チームに、世界記録を樹立するチャンスが訪れる場所です。チャンスは2回、「モーターサイクル最高速チャレンジ」(8月23日~28日開催)と「マイク・クック・ボンネビル・シュートアウト」(9月12日~18日開催)です。

ユタ州北西部にあるソルトフラッツの広さは100平方km以上。しかし、記録挑戦に使われるこの広大な平地は、いくつかのレース旗とコーン(円錐標識)でコースがそれと分かる他には何もない場所です。記録が公式認定されるためには、あらかじめ設定した距離をまず一方向に走り、その後、同じコースを逆方向に戻る「リターン・ラン」を走る必要があります。この2回の走行の平均をとって、記録挑戦が成功したかどうか決定されます。

マシン

カストロール・ロケットには、カストロールとトライアンフの世界新記録樹立が託されています。2013年に製造されたこの流線型のカスタムバイクは、その性能を示す素晴らしい数字に支えられています。ライダーの後ろに据え付けられた2基の3気筒トライアンフ・ロケットIIIターボエンジンが、後輪に1,000馬力を超えるパワーを供給。2基の直列型エンジンはそれぞれ排気量1,485ccを誇り、最高性能は毎分9,000回転で発揮されます。

エンジン製造担当のカーペンターがエンジンを2基にした理由は何でしょうか? 「2基が理に適っているのです。巨大なエンジン1基でも、恐らく速度記録への挑戦はうまくいくでしょう。しかし、ショートストロークだと、モーターにかけるストレスを減らして、毎分当たりの回転数を上げることが可能です」とカーペンターは説明しています。

カーペンターにエンジン2基搭載を選択させたもう一つの理由は「車体重量」でした。「エンジンを1基追加して重量が増えれば、塩湖で摩擦が少ないボンネビルの路面で、摩擦を高めることができます」とカーペンターは語ります。ロケットを運転するジェイソン・ディサルボも「塩の路面は摩擦が少なく、あらゆる方向から吹く風に押されてしまいます」と、事情をよく承知しています。

翼のない飛行機のような形状のカストロール・ロケット。そのボディーは、カーボン・ケブラー素材のいわゆるモノコック構造で、車長7.7メートル、車幅61センチメートル、車高91センチメートル。スイングアームはアルミニウム製です。オーリンズのショックアブソーバーと、グッドイヤーが今回のために特別に開発したタイヤ「ランドスピード・スペシャル」を合わせて使用し、ソルトフラッツの塩路面でバイクの完璧なコントロールを可能にしています。燃料はメタノール、つまりアルコールです。エンジンオイルは全合成のCastrol Power1 4T 10W40を使用。ロケットの減速には、カーボン製ブレーキディスクとパラシュート2本が使用されます。

ライダー

ライダーは、米国ニューヨーク州スタフォード出身のプロのオートバイレーサー、ジェイソン・ディサルボ。これまでにロードレース世界選手権の125cc、250cc、Moto2クラスにワイルドカードで出場。Moto2クラスに出場したのは2010年インディアナポリスのレースだけですが、初挑戦で10位以内に入りました。

ディサルボが主に参戦しているのは、AMAスーパーバイク選手権(AMA Pro Road Racing)シリーズ。トライアンフ・デイトナに乗っての出場です。とはいえ、ボンネビル・ソルトフラッツは、この30歳のライダーにとって勝手の良く分かったコースです。ディサルボは2012年、ボンネビルで米国の速度記録を樹立したためです。「地上速度記録レースはモータースポーツの最も純粋な形です。持てる叡智、能力、決断力の全てを動員して自然の力にあらがい続ける。それが速度記録レースなのです」と、ディサルボは関係者全員を幾度となくとりこにしているボンネビルの魅力についてこう語りました。

2012年にディサルボが記録樹立で使用したマシンのためにエンジンを製造したのも、かく言うボブ・カーペンターでした。トライアンフ・ロケットIIIのエンジン2基はカーペンター・レーシング・チームによりチューニングが施され、ディサルボが果敢にライダーを務めます。この両者がそろったおかげで、マット・マークスタラーの設計によるカストロール・ロケットが、現在の世界記録、時速376.363マイル(605.697 km/h)を塗り替える可能性は高まっています。
地上速度記録レースはモータースポーツの最も純粋な形です。持てる叡智、能力、決断力の全てを動員して自然の力にあらがい続ける。それが速度記録レースなのです
ジェイソン・ディサルボ